仕事を終えて駅に着くと、雨が降っていた。
バスに乗って帰ろうと思ったのだけれど、思い留まった。今日バスで帰ると、明日もバスで出勤することになる。往復運賃440円。駐輪場の延長料金が100円。計540円。
やれやれ。ため息をつきつつ、雨の中を原付で濡れて帰った。
原付を運転しながら、なぜ俺はたかが540円のためにこんなにずぶ濡れになっているのだろう、と考えた。考えても考えても、自分の責任である、という答えしか出てこなかった。
帰宅すると、息子はゲームをしていて、妻はテレビを観ていた。「ただいま」と言うと、ようやく息子は「おかえり」と。妻はシカト。二匹の猫が足元に擦り寄り、ゴロゴロ喉を鳴らした。
楽しいことを考えようとしたけれど、明日の仕事や今月末の諸々の支払いのことしか頭に浮かばなかった。
本を読む気にもなれず、風呂で音楽を聴きながら目を閉じる。瞼の裏の暗闇を見つめ、このまま暗闇に沈み込んでしまったらどんなにラクだろうか、と思う。