クズとしての生き方

今時流行らない赤裸々日記

落日の死影

まだ俺が幸せだった頃の文章が出てきた。

今から11年前だ。

以下、引用

 

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冨樫義博氏の「幽遊白書」で浦飯幽助が雪村螢子にプロポーズしたのは彼女の両親が営む定食屋だった。
料理を口に運びながら、何気ない風に、「結婚しよう」と告げた浦飯幽助に憧れを抱いた僕は、自分も誰かにプロポーズする時はこんなシチュエーションが良いな、と思って十五年近くが過ぎた。

十日ほど前、僕と彼女はとあるラーメン屋にいた。
二人でトンコツラーメンを食べながら、取り留めもないことを話していた。駅近のAVショップで昔バイトしていたとか、高校時代から友達と二人で遊ぶと必ず雨が降るとか、バンドの練習はいつもどこそこのスタジオだったとか、そんな話だ。彼女は相槌を打ちながら麺をすすり、僕は話ながらいつもより多く水を飲んだ。
やがて話は、僕がセンパイ等と三月に企画していた個展を辞退した話題になった。
「どうして辞退したの?」
彼女がスープをレンゲで飲みながら尋ねた。
僕が「他に考えなきゃならないことがあるから」と答えると、彼女は「なにそれ」と言って僕を見た。
僕は彼女に悟られないように深呼吸をし、コップの冷水を一口飲んでから、口を開いた。

「結婚しようか」。

彼女は「え?」と言って僕を見た。
僕は「だからさ」と笑ってもう一度言った。「結婚しようか」。

僕の脳裏に、彼女の様々な表情や仕草が去来してきた。
僕に向けて全力で微笑んでくれる彼女、悲しみを堪え切れずに涙で頬を濡らす彼女、自分の不甲斐無さに肩を落として俯く彼女、ケンカの後に僕の胸に顔を埋める彼女、僕をしっかり見つめてくれる、彼女の眼差し。
二人が出会った時、彼女は言った。「幸せになりたい」と。
僕は彼女を幸せにしてあげたいと思う。彼女の表情や仕草や、彼女を彩る全てを、守りたいと思う。
彼女と出会ってからの約八ヶ月間、僕は彼女を何度も傷付けたし、何度も損なってしまったけれど、それ以上に、彼女の幸せを、そして二人の幸せについて考えてきた。
とても単純だけれど、その答えが、結婚という形なのかもしれない、と思った。彼女の背負い込むものを全て僕が受け止めて、彼女の負担を少しでも軽くしてあげたい。
「幸せになりたい」なんて、彼女が二度と口にしないで済むように。

彼女は驚きを禁じ得ない表情で精一杯微笑み、「ありがとう」と言った。
今まで見た中で、一番複雑な表情だった。
「嬉しい」と彼女は言い、笑った。
僕も笑った。

…というわけで、結婚します。
はっきり言ってお金が無いので、すぐには大々的に式を挙げたりとかは出来ませんが、春先くらいまでには一緒に暮らし始めて、入籍したいと思います。
今月末には彼女の御両親に御挨拶に行きます。
何人かの友達には軽く報告したのですが、ある人は寂しそうにし、ある人は難色を示し、ある人は「おめでとう」と言ってくれました。「しっかり彼女を守って、幸せになれよ」と。
ありがとう。

まぁ何が幸せかなんて分からないし、迷ってばかりだけれど、最大限の努力をしようと思う。

なんて言ったりしてね。

 

 

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引用終わり。

 

俺にもこんな風に幸せな頃があったんだな、と悲しくなった。妻は今では俺を憎んでいる。何もかもが変わってしまった。

またあと数時間後には仕事だ。胸が苦しい。

幸せって一体なんなんだろう?