クズとしての生き方

今時流行らない赤裸々日記

君は桜

ミスチルを聴くと、大学一年生の時に付き合っていた女の子のことを思い出す。

その女の子はミスチルが好きだった。

彼女とは、確か半年くらい付き合っていたと思う。学食で膝にローキックを食らわされたり、大学の近くのブックオフの前で殴られたり、あまり良い思い出は無いけれど、それでも、彼女と過ごした時間が全て無駄だったとは思えない。時には心を通い合わせたし、笑ったり、泣いたり、その辺の恋人同士と同じように付き合っていた。

彼女は俺と学年は同じだったけれど、俺よりひとつ年上だった。
彼女は高校生の頃、鬱病を患って長期間入院し、留年した経験があった。

一度だけ、その時のことを話してくれたことがある。

セックスの後、彼女は俺の隣でシーツにくるまり、ベッドサイドの灯りを見つめながら、「早く抜け出したくて仕方なかった」と言った。「狭い病室の壁という壁が自殺防止用の柔らかいクッションで覆われてるの。馬鹿みたいでしょ」。
俺は何と言えばいいか分からなかった。黙っていると、彼女は俺にキスをして、「もうあそこには戻りたくない」と言った。

彼女は月に一度、病院でカウンセリングを受けていた。薬を飲んでいたし、時々、情緒不安定になることがあった。
俺は彼女を抱き締め、「大丈夫だよ」と言った。「俺が守るよ」と。

当時、俺は19歳だった。何の力も無く、自分のことだけで精一杯だった。誰かを守ることなど到底できるはずもなく、やがて俺の方から彼女に別れを告げた。
駅の喫煙広場のベンチで彼女に別れようと言った時の彼女の目が今でも忘れられない。俺が何を言っているのか理解できない、というような目をしていた。

彼女と別れた後、彼女をたびたび大学内で見かけた。彼女はいつも一人だったし、俯いて歩いていた。すれ違っても目を合わせなかった。

別れてからしばらくして、俺は一度だけ彼女とセックスした。
彼女は俺にキスをした後、「今、好きなひといるの?」と訊いた。俺は答えなかった。彼女は俺の胸に耳をぴったりと押し付け、ため息をついた。
俺もため息をつき、「いるよ」と答えた。「好きなひとがいる。付き合ってる」。
すると彼女は「私も」と言った。「付き合ってるひとがいる」。

 

その数日後、彼女の彼氏と名乗る男から俺の携帯に電話があった。「もう彼女と会うな」というようなことを言われた。俺は「分かった」と言って電話を切った。

それから更に数日後、大学の食堂で彼女と会った。今まで俺が彼女に貸していたCDやらDVDやらを受け取った。
「本当に終わりね」と彼女は言った。
俺は「そうだね」と言ってその場を離れた。

返ってきたCDの中に、彼女からの手紙が入っていた。
「今までありがとう。私の初めての恋がこんな風に終わっちゃって残念だよ」。

 

彼女は今、どうしているのだろう。実家の茨城県に帰ったのだろうか。
俺は彼女を守ることができなかった。人が人を守ることは、とても難しい。彼女は自分を守ってくれる人と出会えただろうか。